事前アングル・その2
続き。
「これ着て、客寄せですか?」
名人でありながら、所詮その扱いは新人社員のそれと何ら変わらない。
「お前がその気なら、それ着たままぷ○○よ対戦してもらって構わないんだが?」
「それは遠慮します」
一瞬、青いハリネズミが人間と対戦してる絵を思い浮かべて「かなりおいしい」と思ったが、あくまで僕は「名人」の称号にこだわった。その前に、とりあえず客寄せだ。着ぐるみを着て店内を徘徊する。店内中の人間の視線がたまらなく気持ちいい。「マスクマンって、こう言う気分なのかなぁ」と、少しだけ思った。
一通り客寄せを終えて、いよいよ本番。たくさんのギャラリー、参加者の前で紹介される。
「ぷ○○よ名人の、きめん名人とI名人です」
大会には、僕と同期のIくんも名人役として参加していた。このことが、後で大きく僕に影響することになるとは、このときはまだ気付く由もなかった。
参加賞ありの大会のため、参加者の多くは女性だった。しかし僕の最初の相手は、いかにもゲームやり込んでいる風の男性。初戦開始。僕は早々と連鎖を組みに行くも、相手の連鎖を組む速度は、僕の比ではなく早かった。とてつもなく巧い。僕は思った。
「キサマ、このゲームやりこんでいるな!」
「答える必要はない!」
バーン!! きめん、おじゃま○よに押しつぶされ、あっさり敗北。とりあえず気を取り直し、次の相手と対戦する。徐々に調子も上向き、連鎖を決めて相手に連勝を開始した頃、隣の席のIくんの台の回転が、異常に速い事に気が付いた。対戦の合間を見て、隣の画面をのぞき見る。
「Iのやつ、『ガチ』を仕掛けてやがる」
『ガチ』とは『ガチンコ』の意味で、本気の事だ。Iは、全く手を抜かず、向かってくる相手をことごとく秒殺している。販促イベントなのに、これではこのゲームを嫌いになって帰る客がいるかもしれない。僕はイベント担当者に視線を送った。彼は明らかに僕に目で合図を送った。その合図は、
「負 け ブ ッ ク を の め」
だった。負けブック、要するに「接待プレイ」のことだ。ある程度、相手にゲームを楽しんでもらい、最後は名人が勝つ。これが理想的な図式だったが、なにせこのゲームは先手必勝。相手より早く連鎖を組んだ者勝ちである(初代のみ) 初心者相手には通用しても、経験者にはなかなか通用するものではない。僕は徐々に負けが込み始め、連敗を重ねていった。
そんな時、僕の後方でひそひそ話をしている女子に気が付いた。なにやら僕のことを話しているようだった。僕はその対戦にも負けたあと、後方のひそひそ話に耳を傾けた。そして僕の耳に飛び込んできたのは、信じがたい一言だった。
「やだぁ。この人、名人じゃない!」
!! 激しいショック。負けブックを飲んだばかりか、こんな屈辱的な言葉まで浴びせられようとは…。
続く。
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