牛乳ビンの底のようなメガネ
だいぶ前のことなので、いつ頃のことだったか。確か中学一年の頃、クラスに「ヒロ坊」と言う男子がいた。彼は牛乳ビンの底のような、分厚いメガネをかけていた。相当目が悪かったのだと思う。
そんなある日、ヒロ坊がメガネを見つめながら廊下に立っていた。
「なにしてんの?」
「いや、メガネが壊れちゃって…」
見れば、ヒロ坊のメガネの「ツル」の部分が、本体であるフレームと離れてしまっている。彼はためしに顔にかけてみたが、やはりずれてしまう。
「ネジがいつのまにか無くなってたんだ」
とヒロ坊は言った。見れば、ツルとフレームを繋ぐ蝶番の部分で、ネジが抜け落ちていた。だが、直径1mm程度のネジなど、学校にあるはずもない。何か引っ掛けるものがあれば、上手く繋ぐことが出来そうだ。僕は学生服のポケットを探った。金属のような感触が指に当たる。取り出してみると、それは極細のチェーンであった。
いい歳こいた今ですら、光り物のアクセサリーなど身につけていないのに、なぜ当時チェーンを持ち歩いていたのかは分からない。多分ホームセンターで買うような、安物のチェーンだったのだろう。そのチェーンの一つを取り外して、指で強引に曲げ、メガネのネジ穴に差し込んでみる。
「あ、入った」
極細のチェーンの一つは、上手くメガネの蝶番にはまってくれた。ツルの部分も稼動するし、メガネをかけても違和感はない。
「よかった~。助かったよ」
牛乳ビンの底のようなメガネの奥で、満面の笑みを見せたヒロ坊。そんな彼に僕は、
「応急処置だから、早いとこメガネ屋に行ったほうがいいよ」
と伝えて、家路についた。
そんなこともすっかり忘れた、約1ヶ月後のある日。突然応急処置したメガネのことが気になったのか、僕はメガネのことを聞いてみた。
「そういや、前にそのメガネって応急処置したっけね」
「あ。そう、まだ応急処置のまま」
!!
見れば、約1ヶ月前に施した応急処置のまま、ヒロ坊のメガネには極細のチェーンの一つがはまったままだった。
「直そうぜ」
僕はそう呟いた。
仕事中に僕のメガネが壊れた。
壊れたのはメガネのツルではなく、鼻の頭を押さえる丸い部品だ。とりあえず外に出ている間はそのままにしていたが、やはり1日付けている訳にも行かず。そうこうしているうちに、鼻の頭がひりひりしてきた。
こう言うときは応急処置だ。事務机の中からクリップを取り出し、指で丁寧に曲げて、丸い部品とフレームの穴に差し込む。ちょうどいい具合にはまってくれた。
あとはクリップを適度な長さに切り取って、応急処置は完了だ。あとは給料が入ったら、購入したメガネ屋さんに持っていって、直してもらおう。
そう思ったのは、2ヶ月前。メガネが壊れたのは、7月上旬。
もう2ヶ月もこのままだよ。ヒロ坊のこと全然笑えないじゃん!
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