ラノベ/がろすぺ!/第1-A話 闘牛士(マタドール)ローレンス・ブラッド
ゲームセンターの「格闘ゲーム」が流行りだして数年。
世界中の格闘ゲーム人口が40億人を超えた、199x年の世界。
そんな中、特に突出して人気の出たNEO-GEOの格闘ゲーム「餓狼伝説スペシャル」は、プレイヤー総数が10億人を突破し、国家間の話し合いの場で対戦が行われるほどの人気であった。
そんな中で日本最強、いや、世界屈指と言っても過言ではないプレイヤーが集まる店が、札幌市の北区にあった。
店の名前は「アリマジロウ」。
「誰だよ!」と思わず突っ込みたくなるような店名であったが、折り紙付の実力者が集まると評判の店だった。
その店は、ゲームセンター専門ではなく、家庭用ゲームの販売も行っていたが、周辺に競合のゲーセンがなく、また1プレイ50円の手ごろさもあってか、気がつけば対戦台が10セットを超え、休みの日には朝から対戦プレイヤーが挙って詰め掛けているほどだった。
その日も日曜日の11時だと言うのに、3台ある「餓狼スペ」の対戦台は全て埋まっていた。
店の入り口から数えて、1番手前の対戦台はアンディ・ボガードが連勝を続けていた。
「餓狼伝説2」と比較して、弱体したと言われたアンディだったが、滞空の強さとすばやい攻撃は健在で、むしろプレイヤーにとってはそれを「適度なハンデ」と受け取って、キャラ性能の弱体化を楽しんでいるようでもあった。
少し店の奥に進み、中ほどにある対戦台では、ビッグ・ベアがこちらも連勝を続けていた。
雑誌「ゲーメスト」では、その動きの遅さから「餓狼2」以来ダイヤグラムでは最弱に近い評価を受けていたが、この店においてはそんな評価は無関係だった。巧みなライン移動からの吸い込みパワーボム、相手に不自然さを感じさせない溜めドロップキックなど、力強さとテクニックを感じさせる試合運びであった。
そして、店の一番奥にある対戦台。
すぐ後ろに店内唯一の自動販売機が設置されており、また、ゲーム雑誌や休憩用のベンチが設置されていることから、店の一番奥でありながら最も人の集まる空間であった。
そして、その後ろに集った人々は、自販機でジュースを買うでもなく、その目の前に設置されている対戦台に釘付けになっていた。
この対戦台で1P側に座っていたのは、不知火舞使いの少女。
少女と言っても、実際には二十歳を超えており、時折大人びた発言をしたりもするのだが、そのメガネをかけた童顔な姿は、女性と表現するより、未だ少女と呼ぶほうが適切に思えた。
だが、その対戦台を見ていたギャラリーは、舞の動きを見ていたわけではなかった。対戦相手を驚愕の表情で見つめていた。
2P側に座っていたのは、ローレンス使いの男。
休みだったからか、薄く無精ヒゲを生やしたその男は、無表情のままローレンスを操作し、そして不知火舞を圧倒していた。
「ゲーメスト」のダイヤグラムにおいて、押しも押されもせぬ「最弱」の称号を受けたローレンス。
動きは遅く、避け攻撃は相手の攻撃を避けられず、超必殺技はコマンドが長く出しづらい上に、いざ出現しても相手の小パンチに割り込まれるほどの弱さであった。
もはや、メーカー側でバランスを取る気など皆無のようなキャラクターであり、世間でも使うプレイヤーはまれであった。
そのローレンスを操るプレイヤーの名は毒村。
最弱と呼ばれたキャラクターを独自の理論で解析し、キャラ性能の差を究極の「先読み」で埋めることに成功した、日本屈指のローレンス使いであった。
不知火舞が忍蜂で突進するも小パンチで迎撃される。龍炎舞はバックステップでかわされ剣を突き刺され、ムササビの舞にいたっては「使えない」と揶揄された避け攻撃で打ち落とされる有様だった。
少女の使う不知火舞が、悲鳴を上げて扇子を放り出し崩れ落ちる。
ローレンスの2本ストレート勝ち。完勝である。
「さすがですね。ここらで連勝を止めたかったんですけども」
「いや、こっちもゲージは赤くなってたし危なかったよ」
少女と言葉を交わした毒村は、ようやく無表情を崩してやさしく微笑んだ。
この時点でローレンスは、実に41連勝を記録していた。
~続く~
第1-B話
http://kmnparty.way-nifty.com/manga/2013/05/1-b-ffe5.html
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