ラノベ/がろすぺ!/第1-B話 闘牛士(マタドール)ローレンス・ブラッド
前回 第1-A話
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ローレンスが舞を倒したのとほぼ同時に、「アリマジロウ」に新たな来店者があった。
深めにニットキャップをかぶるその風貌はよく見えなかったが、背格好から若い男性、恐らく高校生であろうと思われた。
その男は、店内の対戦台を入り口からなめるように見つめながら、店の奥まで歩を進め、止めた。男の目の前には、先ほど41連勝目を収めたローレンスが、CPUの「山田十平衛」に苦戦している姿が映った。
「餓狼伝説スペシャル」のCPUは、回転率を上げるためか、デフォルトのLEVEL4ですら、溜めいらず、コマンド入力いらずの凶悪度合いで襲ってくる。
そんなローレンスの戦いぶりを見て、若い男が口を開く。
「餓狼スペで日本最強の店があると聞いてきたけど、こんな最弱キャラのローレンスに40連勝もされるような店じゃレベルも知れてるなぁ」
わざとらしく大声で言い放った男のセリフに反応し、店内に軽く緊張が走る。しかし、ローレンスを操る毒村は、CPUの山田十平衛に早くも1本取られ、それどころではなかった。
「まあ噂なんて尾ひれついてるからそんなもんか。こんなザコ倒してもしょうがないんだが」
まだ世にインターネットがない時代。
人々はゲームの情報を主に雑誌で手に入れていた。この店「アリマジロウ」も、雑誌社主催の格闘ゲームの全国大会で、優勝5回、準優勝3回、準決勝以上の上位進出は10回以上と言う華々しい成績があればこそ、名を知られるようになった。
雑誌で結果を見て全国から人が集まり、その遠征者が地元に戻って口コミで噂が広がり、今では週末となれば、全国からの遠征者は毎週軽く2桁を超えていた。
この店に現れた若い男も、そうした噂を聞きつけこの店にやってきた遠征者の1人であった。やはり店内に聞こえるようにわざと大声で前述のセリフを言い放ち、1P側の席に座り50円玉を投入し、スタートボタンを押す。
画面には対戦者が現れたことを示す「NEW CHALLENGER」の文字が表示される。
乱入した男は荷物を降ろし、使用キャラを選ぼうとしたが、向かいのローレンス使いが若い男に笑顔で声をかける。
「いやあ、危ないところだった。すまん!」
若い男は自分に向けて発せられた言葉だと気づくまで、たっぷり3秒はかかった。
確かに乱入前のローレンスの状況は、CPUの山田十平衛に1本を取られ、2本目も赤ゲージが点滅している有り様だった。
確かにあのまま自分が乱入しなければ、向かいの40連勝中のローレンスは、そのままゲームオーバーになっていた可能性が高かった。自分が乱入したのは、決して相手を助けるためではない。なのに初対面の相手にお礼を言われると言う矛盾。
「なんで40連勝もするローレンスがCPUに負けそうになってるんだ。やっぱりこの店はたいしたことがなさそうだ」
毒村の声に答えるでも、愛想を見せるでもなく、若い男は少し目を吊り上げながら、自分の使用キャラの選択を始めた。
使用キャラはキム・カッファン。それも赤い2Pカラーを若い男は好んだ。
「餓狼伝説スペシャル」において、もっとも最強で極悪と呼ばれるキャラ。それがキムであった。
なぜSNKはキムをこんなに強くしたのか? バランスもへったくれもないほど強化されたその性能は、もはや「キムの使用禁止はプレイヤー同士の暗黙の了解」と言われるほどであった。
だが、若い男はためらいなくキムを選んだ。
これは、自分の好きなキャラを「強いから」と言う理不尽な理由で変更したくないと言うことと、勝利にこだわるあくなき欲望がそうさせていた。周囲のギャラリーからは、
「キムか…」
と言う声がボソボソと漏れ聞こえてきた。
若い男は聞きなれたその声に耳を貸すこともなく、目の前の画面に集中していた。
「ROUND1」
「FIGHT」
画面の中でキャラクター紹介が終わると同時に、ローレンス使いの毒村と、若いキム使いの対戦が始まった。
~続く~
第1-C話
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