ラノベ/がろすぺ!/第2-A話 舞闘家(ダンサー)ダック・キング
前回 第1-C話
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「なんだテメェ!」
連コインを止めた男に対し、赤キム使いが立ち上がって近寄り、睨みを利かせる。
興奮状態の赤キム使いに声をかけた男は、その声を受け流しつつ冷静に声をかける。
「もう分かったろ。それよりも連コインは他の人に迷惑だ。台を空けなさい」
穏やかながらも命令的な口調で言われ、赤キム使いは声をかけてきた男をしばらく睨みつけていたが、次のプレイヤーが対戦台に座ったことで、少し台から距離を開けた。席に座ったのはアリマジロウで一番のビッグ・ベア使いの男だ。この店でも滅多に見られないローレンス使いvsビッグ・ベア使いの対戦に、見守るギャラリーの熱量が上がっていく。
その熱量とは反対に、すでにその前に対戦していた赤キムのことなどまるで無かったかのような空気に、赤キム使いは居心地の悪さを感じ始めていた。赤キム使いが引き上げかけたそのタイミングで、男は声をかけた。
「隣の対戦台が空いたが、良ければ相手になるぜ。憂さ晴らししたいだろ?」
その挑発ともとれる言葉に赤キム使いが反応する。男は1P側、赤キム使いは2P側に座った。お互いに50円玉を投入し、対戦の始まりである。
赤キム使いはやはりキムを選んだ。1P側の男が選んだキャラはダック・キングだった。
「ダックだと? テメぇなめてんのか!」
2P側の赤キム使いが1P側に聞こえるような声で叫ぶも、男は反応しない。黄色いジャケットを着こんだダック・キングが、画面の中で「カーモンベイベェ」と答えるだけだ。
「ROUND1」
「FIGHT」
試合が始まると同時に赤キムが猛攻を見せる。ダックは小技こそ当てているものの、キムのゲージを半分程度しか減らせないまま、赤ゲージまで追い込まれていた。赤キム使いはそんなダックを見ながら、
(なんだコイツ…口先だけかよ)
とイラ立ちを募らせていた。
だがイラだっている赤キム使いは気づいていない。
周囲のギャラリーが、ダックが赤ゲージになる前からずっと、不思議な期待感で2人の対戦を見つめていることに。
キムの猛攻は続く。半月斬でダックのゲージを削り、あと少しで1ラウンド目を先取できると思っていた次の瞬間、キムの身体は宙に浮いていた。
「!?」
赤キム使いが動きを止め、目を見開いて画面を見つめる。
「You an angel baby !!」
画面内のダック・キングは、落下するキムに連続攻撃を加え豪快に投げ飛ばす。キムの悲鳴が店内にこだまする。その対戦を見ていたギャラリーから口々に、
「オネンジョベイベー!」
「オネンジョベイベー!」
の声が上がる。
勝ち名乗りを上げるダック・キング。しかし、試合を優勢に進めていたはずの赤キム使いは、いまだに自分の身に何が起こったのか理解出来ていない。最後に出した技は確か半月斬。それで次の技を出して押し切ろうとした瞬間に、いや、技の硬直中に、
「吸われた……の…か?」
赤キム使いの動揺は当然である。
技のコマンド入力が難しいとされる餓狼伝説スペシャルにおいて、1、2を争うほどの高難度を誇るコマンド技、それがダック・キングの使う超必殺技「ブレイクスパイラル」だった。
自身が赤ゲージの時に、←↙↓↘→↗↓ +BC(キーボードでは4123692 +BC)と入力するこの技は、そのコマンドの複雑さにより使える者は限られるが、極めてしまえば近距離の様々な場面で入力出来るようになる。
だが反対に、飛び道具や強力なコンボを持っていないダックにとっては、この技が使えて初めてまともに対戦出来ると言っても過言ではないだろう。
紹介が遅れたが、このダック使いの男は、餓狼伝説スペシャルで強豪ぞろいのアリマジロウにおいて、ダックキングで店内の上位戦線を戦う男。ブレイクスパイラルを使いこなすことで、店に革命を起こした男。
その名を極藤(きめとう)と言った。
~続く~
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